
2025年公示地価レポート:インバウンド回復と再開発が牽引する地価上昇
国土交通省が2025年1月1日時点の公示地価を発表しました。全国平均(全用途)は前年比2.7%上昇し、バブル崩壊後の1992年以降で最高の伸び率を記録しました。この記事では、関西圏・中部地域・首都圏の地価動向を詳しく分析し、その背景と今後の見通しについて解説します。
全国概況:大都市を中心とした上昇傾向
今回の公示地価は、前年の2.3%を上回る2.7%の上昇となりました。特に東京、大阪、福岡などの主要都市では商業地を中心に10%を超える上昇率を記録し、地方との格差が拡大しています。この上昇の主な要因は、インバウンド需要の回復と大規模再開発の進展、そして国内外からの投資マネーの流入です。
関西圏:京都と大阪が牽引する地価高騰
京都市:駅周辺の開発がけん引
関西圏では、京都市と大阪市の中心部で地価上昇が顕著です。特に京都市内の商業地は大阪圏の上昇率上位10地点のうち6地点を占めました。JR京都駅南側では21.9%という高い上昇率を記録しています。この地域では次のような動きが見られます:
- 高速バスや観光バスが頻繁に発着し、国内外の観光客でにぎわう
- ホテル開発が相次いでいる
- 第一工業製薬が本社を移転するなどオフィス建設も進行中
- 京都市による容積率や高さ規制の緩和が追い風に
再開発が終わるのはまだ先で、地価上昇は続く。いずれ京都駅周辺が府内最高値となる可能性があると分析しています。
大阪市:道頓堀とうめきた開発
大阪圏の商業地で上昇率1位はミナミの繁華街・道頓堀で22.6%を記録しました。フグ料理店「づぼらや」の跡地に串カツ店がオープンし、インバウンド需要を集めています。
一方、大阪圏の最高価格地点はJR大阪駅北側「うめきた」再開発地区の「グランフロント大阪」南館で、1平方メートルあたり2,430万円となりました。
不動産サービス大手JLL関西支社の担当者は「大阪の都心部の稼ぐ力が強まっている」と指摘し、「高い賃料であっても短期間で入居企業が決まる。都心部の強さを示す」と評価しています。
兵庫県と奈良県:観光と再開発の影響
兵庫県では神戸市の繁華街・三宮地区が9.8%上昇し、県内上昇率1位は豊岡市の城崎温泉街で20.2%を記録しました。
奈良市では中心繁華街の近鉄奈良駅周辺に加え、近鉄新大宮駅に近い大宮通周辺の上昇幅拡大が目立ちます。2024年9月に外資系ホテル「ノボテル奈良」がオープンし、2025年2月には南都銀行の新本店が開業するなど、インバウンドとオフィス需要が相乗効果を生み出しています。
中部地域:名古屋中心部から周辺へのシフト
愛知県の商業地:周辺部へ開発がシフト
愛知県の商業地は前年比3.7%上昇し、4年連続の上昇となりました。ただし上昇率は前年から0.5ポイント縮小しています。特徴的な動きとして:
- 名古屋市中心部の高騰が一服
- 千種区など駅至近の好立地が値上がりをけん引
- 開発の周縁部シフトが地価にも波及
県内商業地で最も上昇した地点は名古屋市千種区の「今池ガスビル」で、14.2%高い1平方メートルあたり161万円でした。地下鉄今池駅に近く、高級マンション「ザ・ファインタワー名古屋今池」の建設も進行中です。
一方、県内商業地の最高価格地点である名古屋市中村区名駅の「ミッドランドスクエア」は前年から横ばいの1平方メートル1,950万円でした。価格上位5地点のうち4地点は横ばいとなっており、建築コストの上昇もあって投資回収が懸念されています。
不動産鑑定の専門家は「愛知はインバウンドの戻りが相対的に鈍く、オフィス賃料の上昇もまだ大きくない」と指摘しています。
愛知県の住宅地:熱田区と千種区が人気
愛知県の住宅地は平均で2.3%上昇し、上昇率上位5地点を熱田区と千種区が占めました。金山駅に近い熱田区の地点が10.6%高と上昇率トップで、金山では駅前再開発の計画があります。
市町村別の上昇率では長久手市が4.9%と、トップの大府市(6.4%)に次ぐ2位となりました。都心部のマンション供給が減って需要が近隣に流れている。中区などに比べ割安感もあると分析しています。
首都圏:東京都の地価上昇が加速
東京都全体の状況
東京都内の2025年公示地価は全用途で7.3%上昇し、商業地10.4%、住宅地5.7%とそれぞれ4年連続の上昇となりました。前年と比較可能な2,542地点のうち、9割超の2,483地点で価格が上がり、下落は多摩地域等の13地点のみでした。
商業地の動向:銀座が最高価格、渋谷・浅草が上昇率上位
商業地で最も地価が高かったのは「山野楽器銀座本店」のある「中央区銀座4-5-6」で、19年連続の首位となりました。東京都財務局の担当者は「インバウンドの回復や再開発による人流の増加で継続的な上昇基調を示した」と説明しています。
上昇率でみると、「渋谷サクラステージ」近くの「渋谷区桜丘町14-6」が32.7%で1位、2位は「台東区浅草1-1-2」の29.0%でした。浅草地区は上位10地点に4地点入り、インバウンド需要の強さを示しています。
23区の商業地の上昇率は11.8%で、区別では駅前再開発が進む中野区の16.3%が最も高く、杉並区(15.1%)、台東区(14.8%)が続きました。
住宅地の動向:都心5区が高上昇
都内の住宅地は5.7%上昇し、上昇率1位は「目黒区青葉台4-6-19」で18.9%でした。渋谷駅に近い高価格帯の分譲マンションがある地域で、マンション需要の高まりが影響しています。
23区別の上昇率は中央区の13.9%がトップで、2位以下は港区(12.7%)、目黒区(12.5%)の順となりました。テレワークの定着で広い住宅を求めるニーズなどがあり、利便性や住環境に優れた都心区を中心に上昇が目立ちます。都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の平均上昇率は12.0%で、残り18区の平均(7.4%上昇)を大きく上回りました。
都市間比較:二極化が鮮明に
商業地の上昇率を都市別に比較すると、東京23区(11.8%)、大阪市(11.6%)、福岡市(11.3%)が10%を超える上昇を示した一方、札幌市(6.0%)、神戸市(5.5%)、名古屋市(5.0%)、広島市(4.6%)は伸び率が低めでした。
人口移動との関連性も見られ、流入が多い自治体で地価の上昇が目立ちます。三大都市圏(東京、大阪、名古屋)の商業地は7.1%上昇し、前年の5.2%から伸びが加速しました。一方、三大都市圏を除いた「地方」は前年の1.5%から1.6%の上昇にとどまりました。
地価上昇の背景要因
インバウンド需要の回復
訪日外国人の増加が、特に京都、大阪、東京の商業地の地価を押し上げています。浅草や道頓堀などの観光地では、インバウンド向けの店舗展開が活発化しています。
投資マネーの流入
日本の不動産市場には投資マネーが流入しています。JLLによると、2024年の国内商業用不動産投資額は計5.5兆円で前年から6割ほど増加し、うち海外投資家分はおよそ1兆円(前年比7割増)でした。
米ドル換算の24年の投資額を国別に見ると、日本は米国、英国に次いで3位でした。都市別では東京がニューヨークに次ぐ2位となりました。JLLの不動産アナリストは「比較的低金利な日本市場は海外勢にとって魅力的だ」と指摘しています。
実需を伴う上昇
今回の地価上昇はバブル期とは異なり実需を伴っています。東京都心のオフィス空室率は2月に3.94%と需給均衡の目安となる5%を下回っています。日本ではコロナ禍後も海外ほどテレワークが広がらず、都市部への回帰が需要を生んでいます。
今後の見通しと課題
建設コスト上昇の影響
建設業では資材高騰に加え人手不足により人件費も上昇しており、コスト増加が地方を中心に再開発計画の見直しを迫っています。例えば:
- 岐阜市ではJR岐阜駅北側の再開発ビル計画が縮小(34階建てから20階建て程度に)
- 札幌市ではヨドバシHDなどによるJR札幌駅前の再開発ビルが35階建てから33階建てに変更
今後もコスト上昇が続けば、地方を中心に商業地の再開発やマンション建設の見直しが広がる可能性があります。
世界経済の不確実性
米国の関税政策などにより世界経済の不確実性が高まっています。景気が減速すれば、日本に向かう投資マネーが減り、上昇が続いている地価に影響を与える可能性があります。
まとめ:地価上昇の今後
2025年の公示地価は、全国平均で2.7%上昇し、バブル崩壊後最高の伸び率を記録しました。特に大都市圏の商業地や住宅地で顕著な上昇が見られ、東京23区、大阪市、福岡市などの商業地では10%を超える上昇率となりました。
地価上昇の背景には、インバウンドの回復、大規模再開発の進展、円安や低金利を背景とした投資マネーの流入などがあります。また、テレワークの定着による住宅ニーズの変化も影響しています。
現在の地価上昇はバブル期とは異なり実需を伴っているものの、建設コストの上昇や世界経済の不確実性が今後の不動産市場に影響を与える可能性があります。特に大都市と地方の格差拡大は、今後の不動産市場における重要な課題となるでしょう。