はじめに:何から手をつけるべき?
終活や相続の準備について考え始めると、「遺言書」「家族信託」「節税対策」「不動産活用」など、さまざまな選択肢が目に飛び込んできます。情報があふれる中、「何から始めればいいのだろう?」と迷ってしまうのは当然です。
実は、どのような対策を講じるにしても、まず最初に行うべきことは「現状の全体像を把握すること」なのです。この記事では、終活・相続の準備における最も基本的かつ重要なステップについて、わかりやすく解説していきます。
全体像の把握とは、具体的に次の2つを指します:
- 推定相続人の確認
- 財産状況の確認
これらをしっかり理解することで、あなたの状況に最適な終活・相続の準備方法が見えてきます。
推定相続人の確認:誰が財産を引き継ぐのか
相続人とは誰か?
相続人とは、「配偶者および血縁関係にある人」という基本構成になります。相続人を確認するためには、生まれてから現在までの戸籍謄本を本籍地の役所から取り寄せる必要があります。
現在、婚姻関係にある配偶者は常に相続人となりますが、血縁関係者については法律で定められた優先順位があります:
- 第1順位:子(子が先に亡くなっている場合は孫)
- 第2順位:親(親が亡くなっている場合は祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥姪)
重要なポイントは、上位の順位に該当者がいれば、下位の順位の人は相続人にならないということです。例えば、子がいる場合、親や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
具体的な家族構成での相続人例
父・母・子の3人家族を例にして考えてみましょう:
- 父が亡くなった場合:
- 配偶者である母と子が相続人になります
- 子が先に亡くなっていて孫がいる場合は、母と孫が相続人になります
- 父が亡くなり、戸籍上の子や孫がいない場合:
- 母と父の親(存命の場合)が相続人になります
- 父の親も亡くなっていれば、母と父の祖父母が相続人になります
- 父が亡くなり、戸籍上の子や親、祖父母がいない場合:
- 母と父の兄弟姉妹が相続人になります
- 兄弟姉妹が亡くなっていれば、母と父の甥姪が相続人になります
- 上記すべてに該当者がいない場合:
- 配偶者である母だけが相続人になります
戸籍謄本を生前に集めておく重要性
相続人を正確に把握するためには、戸籍謄本の確認が不可欠です。思わぬ相続人が存在する可能性もあるからです。例えば:
- 離婚歴があり、前配偶者との間に子どもがいる場合、その子どもも相続人になります(親権が前配偶者にあり、長年会っていなくても)
- 認知している子どもがいる場合も相続人になります
- 最新の戸籍謄本だけでは把握できない相続人がいることもあります
生前に出生から現在までの戸籍謄本(除籍や改製原戸籍を含む)を取得しておくことで、次のようなメリットがあります:
- 遺言書の必要性が明確になる
- どのような内容の遺言書を作成すべきか検討できる
- 相続発生時の家族の負担を大幅に軽減できる
なお、除籍や改製原戸籍は一度取得しておくと有効期限に関係なく使用できるため、早めに準備しておくと安心です。
財産状況の確認:資産の棚卸し
どこに何があるのか把握する
財産状況の確認とは、現在保有している財産の棚卸作業です。主な財産には不動産、有価証券、預貯金などがあります。
あなた自身は自分の財産を把握していても、もしもの時に家族があなたの財産を把握できるでしょうか?相続発生時に最も問題となるのは、「どこに何があるか」を相続人が把握していないことです。残念ながら、日本には相続人が被相続人の財産を網羅的に調べる制度がありません。
不動産の確認と注意点
不動産は毎年春に届く固定資産税の納税通知書である程度把握できますが、課税されていない不動産は記載されていないことがあります。見落とされた不動産は名義変更がされないまま放置され、後の世代で大きな問題になる可能性があります。
2024年に始まった重要な制度 「相続登記の申請義務化」が始まりました。相続で不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に相続登記を申請する義務が生じます。正当な理由なく申請しなかった場合、10万円以下の過料が課される可能性があります。
まずは、自分が所有している不動産がどのような状況なのかを正確に把握することから始めましょう。
有価証券・預貯金の確認
有価証券や預貯金については、残高よりも「どの金融機関に何があるか」を明確にしておくことが重要です。特にネット証券やネット銀行との取引は、手がかりがなければ発見が非常に困難です。
情報を残す方法として考えられること:
- エンディングノートに記録しておく
- 信頼できる相続コンサルタントや専門家に情報を預ける
- 信頼できる家族に情報を共有しておく
重要な注意点 大切な書類を銀行の貸金庫に保管することは避けましょう。名義人が亡くなった後は、相続手続きが完了するまで開扉できなくなる可能性があります。相続手続きがスムーズに進まないと、貸金庫の中身にアクセスできなくなってしまいます。
保険契約の見直し
財産の確認では、保険契約の見直しも忘れずに行いましょう。加入してから見直しをしていないと、保険金の受取人がすでに亡くなっていたり、離婚した元配偶者のままになっていることも少なくありません。定期的な確認と更新が必要です。
全体像の把握から具体的な対策へ
推定相続人と財産状況をしっかり把握できれば、「遺言書」「家族信託」「不動産活用」など、どの方法が自分の状況に最適かを検討できるようになります。
この検討には様々な専門知識が必要となるため、終活・相続の専門家に相談しながら進めることをお勧めします。専門家のサポートを受けることで、あなたの状況に最適な対策を効率的に進めることができます。
まとめ:終活・相続準備の基本ステップ
終活・相続に関する情報は膨大で、つい目新しい対策に飛びついてしまいがちです。しかし、どんな相続でも、まず押さえるべき基本ステップは次の3つです:
- 相続人になる人を確認する
- 戸籍謄本を取得して法定相続人を把握する
- 相続人同士の関係性を理解する
- 財産状況を把握する
- 不動産、有価証券、預貯金など全ての資産を洗い出す
- それぞれの資産の所在と状況を明確にする
- 専門家のサポートを受ける
- 自分の状況に合った具体的な対策を検討する
- 法律や税制の専門知識を活用する
これらの基本ステップを踏むことで、大切な財産を次世代へスムーズに引き継ぐための最適な方法を見つけることができます。終活は「終わり」のための活動ではなく、次の世代への「贈り物」を準備する大切な過程なのです。
あなたの終活・相続の準備が、ご家族にとって最良の形で実現することを願っています。
